一人だなんて思っちゃダメ。
どんな痛みも、みんなと過ごした日々があるから生きていける。-百百-

真夏の野外演劇の祭典〝弔EXPO’19〟全日程が終了した。
東京の下町・南千住の市街地に特設された野外劇場で合計3団体2週間に渡って上演されたこのイベントは、街の納涼祭と連動して催される地域活性の側面も持っている。この活動は今年で5年目であり、主催団体であるgekidanUが南千住という街に寄り添って継続してきたからこそ出来る企画でもある。(gekidanUの終了報告はこちらからどうぞ)

 

2年連続の出演となった今年は新作である「夢を喰むスターダスト」を上演。
野外での新作は12年ぶりであり、今回は「モモ」と「ジギー・スターダスト」を題材にして創作された。
作品のイメージに合わせ、SAIメンバー以外の配役はオーディションで全役決定した。
上演時間の都合もあり当初の構成のうち2/3を残してつくられた本作は、いつも以上にスピーディーな物語展開と個性的な登場人物による狂騒が繰り広げられた。「モモ」に登場する灰色の男たちが、「ジギ―スターダスト」からのインスパイアである火星人となり、火星人が火星復興を目論み人間から時間を奪う内容に設定が変わっている。
時間をめぐり、人間と火星人それぞれの思惑が交差する群像活劇となった。新メンバーの影響も作品にはあり、ポップでカラフルな衣装や世界観は三國谷、バトルシーン演出はぜんと、其々のカラーが反映されているのも今作の特色である。

 

令和元年は政治・文化、共に混迷を極め真実が見えにくい時代となっている。
その中で何を見つめ、何を信じ生きていくのかについて、劇中のキャラクターたちはひとつの可能性を提示した。
それは自分の信じるもの=夢に向かい懸命に生きること。
そして自分の好きなものや守りたいもののために全力になることだ。

夢や欲望と時間はそれぞれが依存する関係にある。
ひたすら明るく、誰かの為に生きた百百。
火星のために生きながらも、最後は自分を必要とした百百のために生きたラザロ。
自分の夢のため、仲間を裏切り人間さえ辞めてしまった時次。
それぞれのドラマが物語を通し伝わった時、演劇はひとつの完成になるのではないだろうか。
上演という一回生の形に残らない舞台演劇は、心に残り、やがて思い出となる。
百百は言う。
「忘れないから。忘れないから。あたしは・・・。」と。
人々の去りゆく姿を見送り、ひとり劇場に残った彼女の台詞からも、今を生きる人々へ向けた力強いメッセージが込められていた。いつでも、また会えるから、今を生きよう、と。

 

最後に真夏の夜の狂騒を、舞台スチルと共に紹介する。
終演後ツイッターにて倉垣が「いずれ完全版として上演したい」という趣旨の発言があり、新たに生まれたひとつの夢となったようだ。


photo by
市川唯
※全編撮影
TANAKA MASAYUKI
※火星蜘蛛、クロニウスのみ

 


不思議な少女 百百・・・常盤美妃(舞台芸術創造機関SAI) 
少年役の多いイメージの常盤が、SAIでは初の少女を生きた。明るい性格とポジティヴな思考で、劇中多くの人物が彼女に救われることになったが、物語の最後では〝百百はなにものなのか?〟というクエスチョンも。

 


未来亀 カシオペイア・・・三國谷花(舞台芸術創造機関SAI)
マイスターホラ・・・倉垣吉宏(舞台創造機関SAI)
バディとしては「贋作マッチ売りの少女」での、ポールとベルナールを想起させるが、全く異なる関係性で作品のポップなムードを担った。ラストのどんでん返しや、劇中のキャラクター性は〝通り過ぎ様に子供が見た時にも、楽しんでもらえるように〟ということから。

 


道路掃除夫 ベッポ・・・ぜん(舞台芸術創造機関SAI)
「モモ」で印象的なベッポは割と原作そのまま・・・だったがそれは束の間。
まさかのデッキブラシとフライパンでのアクションや、二乃とのラブコメ等、見どころ多いベッポを更に魅力的に演じた。

 


料理人 二乃・・・名取えりか
原作から一番設定が変わっているのがニノ。
今作はベッポとニノの物語がひとつの軸となっていた。愛するもののために、その記憶を全て奪われてしまい、夢を失くしてしまった彼女は、それでも生きなければならない現実の中で葛藤していく。中盤の自販機からはじまる独白はSAIらしいシーン。演じる名取が不安定さを見事に表現し、劇中でも印象的なシーンとなった。ラストのベッポとのシーンで報われたという人も多数。

 


物語作家 時次・・・琴音
原作とほぼそのままの、百百(モモ)に恋する少年。灰色の男たち=火星人の傀儡と化す原作とは異なり、自ら彼らと取引をし、人間を辞め、百百を執拗に追い求める。演じた琴音は今回初参加。一方的に喋り自分の要求を通す強引さを、若く瑞々しい演技で魅せた。中盤以降の豹変、渋谷演じるクロニウスとのセットなども含め、出てくる度に楽しませてくれるキャラクターとなった。

 


時間貯蓄銀行員ラザロ・・・藤白レイミ(ウイントアーツ)
百百とならんでもう一人の主人公でもあったラザロ。演じる藤白は今回初参加。原作で有名な時間交換や、裁判のシーンを力強く演じた。脱・火星人となってからは百百に感化された(?)のかはたまた反抗期か、共に最終決戦に挑んだ。悲観的な終わりをまったく見せない潔いその去り際に共感を覚えた人が多かった。なお大人びた外見に反し11歳なので、精神年齢はそんなに高くない。

 


火星蜘蛛エリトリア・・・紗英加 
劇中一切役名を呼ばれないのは、複雑な立ち位置の人物であったから・・・かどうかは定かではない、火星蜘蛛の一体。演じた紗英加は今回初参加。フィジカル面で作品のクオリティを引き上げてくれた。実質一人三役であり、それぞれの役を見事に切り替えて魅せてくれた。

 


火星人の首領アラディン・・・麻宮チヒロ(舞台芸術創造機関SAI) ※声のみ出演
火星蜘蛛シレイヌ・・・宮岡志衣

火星蜘蛛オウロラ・・・浅野雅
「火星蜘蛛」というのは、人間の時間が入った不老不死の人形のことであり、火星人が地球で行動するためにつくった存在。地球の環境に適応できない火星人がパワードスーツを用いるというH・G・ウェルズ「宇宙戦争」を翻案した設定である。ラザロの場合はオリジナルの火星人なので本体が入っているが、蜘蛛たちは時の花が入っているだけ。それぞれの性格は入っている時の花の影響を受けるということで、演じた宮岡・浅野共に違う個性を持つ存在という事を表現してくれた。首領であるアラディンは自分の一部だけをエリトリアに入れていたので、最後は消滅したわけではない。

 


火星蜘蛛クロニウス・・・渋谷翼(舞台芸術創造機関SAI) 
8/4のみの特別出演。時次が使役する火星蜘蛛として登場し、ストリートファイターの時の花が入っていた。時次を担ぐ姿が某有名マンガ・アニメに登場する敵キャラに酷似していると話題になった。ツイッターで #夢ハム検索すると彼が動く姿が上がっているので、8/1,2にご覧になられた方は一度検索してみて欲しい。